20~30代向け

婚前契約書を作成する目的

(1)うまくいかない結婚から引き返す

結婚はとにかく不確定要素が多く、そもそも踏み込むのに勇気がいります。

年齢を重ねれば重ねるほど、ますます不安は大きく、強くなり、自分の選択は正しかったのか、などと日々の悩みは絶えないものです。

選択肢が多い世の中ですから、自分の選択に自信が持てなくなるのは当然なのかもしれません。

うまく行かない結婚から、引き返すことができるための完全な方法があればこれほど助かるものはありませんが、結婚は、相手を生涯助け合い、生活を維持・扶助することを約束することですから、容易には、無責任な巻き戻しはできません。

もっとも、引き返すのにリスクがなければ、または、いくら損失を負えば引き返し得るのか具体的な金額を事前に知っていたのであれば、引き返すかどうか決定する際、判断しやすいことは間違いありません。

上記損失金額については、相手が合意して任意に応じる限り、あなたと相手との間で決定することができます。

私自身もそうだったのですが、結婚しようとする気持ちはあるけれども、何か踏み切れない理由としてはいろいろとあって、離婚に至ってしまうときの経済的リスクは頭をよぎる一つの問題なのだろうと思います。

婚前契約書にもレベルはいろいろありますが、結婚1、2年に起きる離婚に対処するような婚前契約書は意外に重宝します。

医師(40代)の婚前契約書を作成した際の話ですが、お父様の経営する医療法人を継いだばかりで、日中は一生懸命に働かれ、昼は、わざわざ妻のまつ家に昼食を食べにかえってあげるくらい一所懸命に妻にかかわろうとしたものの、妻としては、退屈と不自由さで不満が蓄積し、結局離婚に至ったケースがありました。

このケースでは、奥さんとはいわゆる格差婚で結婚に関する準備費用もすべて先生が出されたケースでしたが、離婚するに際しては、結婚準備費用については、合意に基づき折半で清算を求めることができました。なお、このような合意がなければ、妻側としては贈与、連帯債務の負担割合に関する債務免除(黙示)があったと主張するでしょうから、反論には苦労してしまいます。

また、こういうケースに備えて、財産分与の面で、婚姻後2年以内の離婚は財産分与はしない旨の条項を入れるケースもありますが、こういった条項の有効性の問題はともかくとしても、仮に同条項が有効なのであれば(個人的には微妙だと思います。)、結婚後早い段階で引き返す際の切り札となるのだろうと思います。

(2)準備がなければ裁判所の基準通りに財産が分与されてしまう可能性が高まる

ご存じの通り「婚前契約書」は、日本ではまだ広く浸透していません。

審判例や裁判例が蓄積不十分であり、合意内容がそのまま審判・判決内容に反映されないのではないか、という不安があるのだと思いますし、実際そのようなあるように思います。

世の中種々の契約類型があるなかで、婚前契約書はかなり不安定な契約類型に区別されます。というのも、法律の建前では、夫婦の財産については「自分で稼いだものは自分の財産」が原則であり、夫婦の労働収入・財産は基本的には、各人に帰属する財産であるといいながら、夫婦たるもの、互助、男女平等という社会一般の価値観が、根強いのだろうと思われ、これを否定するようなものは、現在は認められにくいです。

財産分与にかかる事案を見ていると、離婚時の夫婦の収入、財産状況の一切に事情を考慮して、財産分与金額を決めるといいながらほとんどのケースで、5:5ないしは6:4(医師の離婚の事例で、夫の才能・能力が考慮されたとしても、妻側に4割の権利が認められました。)の割合で財産分与がなされます。

簡単に説明すると、あなたが婚姻後、妻に支えられながら1億円を稼いだ場合、財産分与によって5000万円が妻の手に渡ることになります。

司法統計(令和元年度 ―支払額別婚姻期間別―全家庭裁判所)

これは、裁判所が公表した令和元年度の財産分与の金額を、婚姻期間別に整理した一覧表です。

婚姻生活5年目以降は、1000万円を超える比較的大きな財産分与がなされていることがわかります。10年目以降は2000万円を超える例もあり、金額が多くなっています。

そのほか、婚姻期間中にあなたの財産がいったん0になれば、過去の特有財産の有無にかかわらず、増加資産は分与対象財産となってしまうというおかしな運用もあります。

結婚した男がたまたま稼ぐ男であっただけで、また、数年間同居生活を送っただけで数千万円超の金額の権利を取得することは、不合理としか思えません。

どう頭をひねらせても、その女性が行った貢献・労働の内容が数千万円超に見合うものであったとは思われません。もしかすると、一般的な零細なサラリーマンの妻と比較して従事した家事労働において大差ないか、家政婦等を入れている事案では、寧ろ少ないとされるケースもあるかもしれません。

もし、すべての主婦が同じような家事労働をしているのだとすれば、夫の資力や能力の違いによって、同女性の家事労働の対価、キャリア喪失への金銭評価が大きく変わることになりますが、女性間の平等という観点からも、合理的な理由があるとは思われません。(女性側としては、夫の稼得に貢献したというのでしょうが。)

このような問題については、稼ぐ男性の皆さんが、常に問題提起し続けなければなりません。

この男性の問題提起は、結婚前だけに行うのではありません。結婚後も、婚前契約書の有効性に疑義が生じないよう適切にハンドリングしていかなければなりませんし、離婚の局面では、調停、審判、訴訟の場で、弁護士とともに激しく問題提起をしていかなければなりません。

ところで、最近、女性たちが婚前契約書に興味を持ち始めているように感じます。ツイッターなどをみていると、「夫婦のずれを結婚前に分かり合う手段」として重宝しているような記事を見かけますが、実際のところ、夫の行動、態度をコントロールすることによる夫婦円満を目指しているのかもしれません(偏見かもしれませんので流してください。)。

私が、恐れているのは、婚前契約書が男性の権利利益を守るためではなく、女性が男性の行動(タバコ、ギャンブルなど愚かな行為をする権利)コントロールするようなものとして利用される運用となってしまうこと、さらに進んで、同取り決めに違反したことが、将来慰謝料の増額事由として、裁判で証拠として提出されることが状態化することを恐れています。

本末転倒です。

以上、①結婚から引き返す手段、②裁判所・社会一般の固定観念からの脱却が、男性が主体的に婚前契約書を作成する目的です。