20~30代向け

妻側への収入の移転方法

婚前契約書を作成したのに、将来、本当に妻は財産分与を放棄してくれるのだろうかと寝る前に布団の中で不安になったことはないでしょうか。

この不安は、婚前契約書を作成した全ての男性の頭を悩ませる問題であると思います。

その不安が現実化するかどうかは、夫婦間契約において、夫財産の(前倒し的)分配が、まともに考えられているか、次第だと考えます。

私がかかわったケースで、離婚時に上手く解決したケースとしては、

1.夫の収入の中から毎月分配金を支払っていたケース(※条項の作成時の表現、法律構成には要注意)

2.妻側にホテル経営権・マンション等収益不動産の固有の収益源を持たせたケース

 

この場合、移転時の税務上の問題はともかくとして、妻固有の財産の増加の程度、それ対する夫の貢献の程度を考慮して(評価されて)、妻側の納得が得られたのだろうと考えています。

一方、私の経験上、もっとも良くない(妻ウケがよくなかった)ものとしては、次のようなケースです。

1.財産分与の金額を固定する(財産分与としては、夫の収入及び財産の数額に関わりなく離婚時に1000万円分与するなどといった、将来の夫の収入・財産状況を考慮せず、金額が固定されている場合)

2.離婚時の夫の収入をベースに変動して決する(離婚時の夫の特有財産の内、現預金の3割を分与する。或いは、離婚時の夫の手取収入の3倍を上限として協議により決するなどといった、財産分与の金額がはっきりとしない場合)

 

このように、財産分与の金額がはっきりとしない場合や、不確定な事情に依拠して計算される場合、或いは、(離婚するかどうかも不明であるのに)離婚時に清算するというような、最後の最後まで妻に一定の財産が残らないような類型です。

上記のような類型は妻ウケが悪く、妻側に提示した際に難色を示されるケースが多いです。

また、財産分与で揉めるかどうかという問題は、離婚理由が大きく影響します。

特に、夫の不貞の場合には、あれほど穏やかで理解のあった妻であっても、契約に沿って任意に財産の清算に応じてくれることは少ないのではないでしょうか。

夫婦間契約は、夫婦自治であり、夫婦間の問題解決を、裁判所を含めた第三者には委ねないという決意表明であって、一度、妻がその枠から出てしまうと、裁判所のルール(基準)や、夫は妻を自分と同じ財産状態まで引き上げなければならないかのような社会一般の価値観の強制に再び戻されてしまうことを肝に銘じなければなりません

この契約は、将来、家裁の審判に耐えうるものだろうか、と考える前に、まず、妻を夫婦自治に長く引き留める努力の方が、意味があると考えます。

もし、これから婚前契約書を締結したり、更新時期を迎えて修正する時などは、夫の収入・財産の上手な前倒的な分配を提案されてみてはいかがでしょうか。

次に、婚前契約の合理性を持たせようとするあまり、妻に対して、役員報酬として金銭を分配する方法を採った場合の注意点・リスクについて説明をします。

このような方法を採用した場合、婚姻期間中、夫の会社の財産価値の維持又は増加につき妻の貢献があると評価されてしまうことがあります。

例えば、夫が婚姻前から経営している法人において、妻が役員として就任/MS法人の役員に就任し何等か事務を担うケース

妻が夫の会社の一従業員/医院の一コメディカルとして従事しているケース

以上のケースにおいては、最終的に妻側に夫の所有する法人等の企業価値の維持向上に貢献したと評価される傾向にあります。

婚姻時に資産の無い妻側へのガス抜きの方法として、妻に役員報酬を付与するこことを約束して、将来妻の固有財産を増加させ、妻側に納得感を与えるべくこのスキームが提案されることがあります。

確かに、妻を会社役員に就任させれば報酬の分配による所得税減税のメリット、或いは院長の資産をMS法人に移転させ、長い目で見て院長個人の現金比率を下げるという相続税上のメリットがあるため、税理士による勧めで何等かの法人スキームを利用する過程で妻が役員に選任されるケースは大変多いです。

しかしながら、形式的であれ妻を役員に選任することは、ただそれだけで、将来、妻が企業価値を維持・増加させたという言い分を与えることになり得ます。

なお、役員に名目上役員に就任させるのであれば、実際に妻が業務執行や監査業務をしていなかったとしても、問題は変わりません。

名前だけの役員であり、妻が何らの業務に当たっていなかったとしても、対外的に会社法上の第三者責任等を問われるリスクがあることなどを考慮すれば「全く業務に当たっていない」として妻の貢献を否定することはできないと思われます。実際調停実務においてもこのような主張・反論がなされることがあります。

このような主張・反論がなされたときは、大方で、妻側の言い分が認められることになります。

では、妻が夫の会社又は医院の一従業員として就労した場合どう考えるべきでしょうか。

一従業員であるなら企業価値の維持向上をさせたとはいえないとか、妻に貢献度が認められるかは、企業の規模・支配形態(夫の支配比率)等で場合を分けるべきではないかとは言われていますが、私は、そのような考えは危険ではないかと考えます。一従業員であった場合であっても、法人等の何等かの価値の増加があったことは否定できないのですから、特有財産を守るという観点からは、妻を会社に入れるリスクは取るべきではないと考えます。

この点は確定的な裁判基準があるわけではないので、感覚的な話にはなるのですが、妻が就労する法人(企業、医療法人、MS法人)や個人医院が、少人数の事業所であるとか、或いは、妻が一事務員や一コメディカルであっても、およそ夫婦で協力してやりくりしているといえる場合には、実質的には家族事業(夫婦経営)であるなどと評価され、法人資産に対する妻の権利があるという認定を受けやすいです。

実質的に見て夫婦共同事業であるとの評価を受けることもありえますので、法人スキームを採用して何等か節税対策をする際は、将来妻側にどのような言い分を与えることになるのだろうと考えるとよいと思います。

以上のとおり、妻に対して夫の財産を分配する方法としては、いろいろな方法があり、また種々の工夫がなさてはいるものの、どの方法にも問題があるのが現状ですので、夫婦の状況に照らしたベターな方法が模索される必要があります。

このテーマについては、随時記事を更新して、加筆していく予定です。